民事裁判の訴状などの記録を電子化する方針
つい先日の新聞報道によると、政府は、これまで紙での提出を原則としてきた民事裁判の訴状・準備書面などの記録について、近々、電子化する方針を固めたとのことです。
インターネット上に新設される専用サイトを通じて、訴状や準備書面等の書面を提出できるようにする模様です。
政府は、昨年閣議決定した「未来投資戦略2017」に基づき、裁判のIT化を推進するための有識者検討会を内閣官房に設置し、検討を進めてきました。
報道によると、政府は、早ければ2020年度の導入を目指す方針とのことです。
ちなみに、裁判手続等のIT化検討会の議事要旨等は同検討会のwebサイトから見ることができます。
現状、裁判の提出書類は、膨大な量
現在の民事裁判においては、訴状、答弁書、準備書面、書証(証拠書類)などは、原則、全て紙の書面で作成し、提出する必要があります。
これらの書面は、事件によっては、膨大な枚数にのぼることもめずらしくありません。
これらの書面を裁判で提出する際には、裁判所や事件の相手方に届けなければならず、その方法は、持参・郵送・FAX送信のいずれかになります。
自分の手元にも控えを残しておく必要があり、印刷やコピーの労力・費用も大変かさみます。
我々弁護士は、担当する事件ごとに裁判書類の自分の控え分をファイリングしていますが、一つの事件のファイルが、分厚い電話帳何冊分もの厚みになることもよくあります。
(もっとも、最近では、分厚い電話帳なるもの自体、めっきり見かけなくなりましたが…)
裁判期日が開かれるたびに、このような分厚い書類を持参しなければならず、キャスター付きのカバンに書類を大量に詰め込んで、エッチラオッチラ引っ張りながら裁判所に向かうこともしばしばです。
また、書類の保管場所の確保も大変です。
多くの法律事務所では、事務所内のスペースだけでは書類を保管しきれず、終了した事件の書類などは、倉庫などを借りて保管していることも少なくありません。
もちろん、裁判所においても、気の遠くなるような大量の事件書類が保管されています。
弁護士業務のIT化、今昔
なお、筆者が弁護士になった20数年前の裁判では、書類を提出する際、FAXでの提出すら認められておらず、持参または郵送しなければなりませんでした。
平成10年から施行された改正民事訴訟法において、FAXでの提出が可能となり、当時は、「便利になった!」と喜んだものですが、今となっては隔世の感がありますね。
ちなみに、筆者は、弁護士になる前の司法修習生時代は、書面作成にはワープロ専用機(!)を使用しており、弁護士になると同時にパソコンを使い始めましたが、当時、修習でお世話になった先輩弁護士の中には、手書きで書いた文面を事務員さんにワープロ打ちしてもらっている方もたくさんおられました。
現在、筆者の業務では、書面をパソコンで作成するのはもちろん、依頼者や関係者と電子メールでやりとりすることもかなり増えました。
役所や官公庁のwebサイトも充実してきて、業務上必要な登記関連の情報や税務関係資料など、昔はいちいち足を運ばなければ入手できなかったものが、インターネットを通じて入手することも非常に容易になりました。
また、Googleマップの画像で、例えば、交通事故の案件に関して、事故現場の道路状況・位置関係などを見たり、不動産をめぐる案件に関して、問題となっている土地・建物等の画像を見て位置関係を把握したりすることも、場所によっては可能となりました。20数年前には想像もしなかったことです。
もちろん、現在でも、事件処理の過程で実際の現場に足を運ぶことも多々ありますが、特に、相談者から初めて事情をお聞きする際などには、とりあえずの状況把握として、インターネットですぐに現地の状況を見て理解を深めることも可能となり、大変役に立ちます。まさに百聞は一見にしかず、です。
裁判のIT化に関しては、セキュリティやデジタルデバイド(情報通信技術を使いこなせる人とそうでない人に生じる格差)の問題など、検討課題もまだあると思われるものの、ようやく本格的に前に進み始めるようです。
我々弁護士の業務にも大いに影響がありますので、今後の動向に注目したいと思います。
[弁護士 奥田聡子]