民法(債権法)の改正その3~根保証

根保証とは

 

みなさん、「根保証」ってご存知でしょうか。

保証という言葉はよく耳にしますが、「根保証」は聞きなれない言葉かもしれません。

一般的には、根保証とは「継続的な債権関係から生じる不特定の債権を担保するための保証」とか、「継続的な関係から生じる不特定の債務を主たる債務とする保証」と定義されています。

将来にわたる不特定の債務を保証する点に特徴があり、身元保証や、賃借人の債務の保証が典型とされています。

 

根保証の問題点

 

根保証は、将来に発生する債務を保証することから、保証人の予想を超えた過大な債務が発生し、保証人が債権者からその債務の履行を迫られるという事態が多発し、社会問題化しました。

そのため、平成16年の民法改正において、根保証のうち、主たる債務の範囲に貸金等債務(金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務)を含み、かつ、個人が保証人である契約(個人貸金等根保証契約)については、

 ① 極度額

 ② 元本確定期日

を定めることが必要とされました。

なお、①の極度額を定めなかった場合は根保証契約は無効となります。

また、②の元本確定期日を定めなかった場合は、個人貸金等根保証契約の締結日から3年を経過した日に元本が確定します。元本確定期日を定めた場合でも、契約締結日から5年を超える日を定めた場合は、その元本確定期日の定めは無効となり、契約締結日から3年を経過した日が元本確定期日となります。

さらに、元本確定事由として、

・主債務者または保証人が強制執行、担保権実行の申立を受けたとき

・主債務者または保証人が破産手続開始決定を受けたとき

・主債務者または保証人が死亡したとき

には元本が確定すると法律で規定されました。

 

 

今回の改正

 

平成16年の改正は、社会問題化して早急に対応すべきであった融資に関係する根保証において保証人を保護する観点から、個人貸金等根保証契約に限って特則が設けられたものでした。

しかし、根保証の問題点(保証人の予想を超えた過大な債務が発生しやすい点)は、継続的な商品取引にかかる代金債務や不動産賃貸借にかかる賃借人の債務などにも当てはまるため、個人貸金等根保証契約における規律を個人根保証一般に拡大すべきとの議論が起こりました。

かかる議論の結果、今般平成29年成立の民法改正では、個人貸金等根保証契約における規律のうち、極度額の定めが、個人根保証一般に拡大されました。これにより、保証人が個人である全ての根保証契約、例えば、賃貸借契約における保証や身元保証においても、極度額を定めなければ無効となることになりました。

もっとも、今回の改正においても、個人貸金等根保証契約における元本確定期日に関する規律は、個人根保証一般に拡大はされませんでした。元本確定期日に関する規律が、個人貸金等根保証契約以外に適用されなかったのは、例えば、不動産の賃貸人が根保証契約を前提として賃貸借契約を締結したにもかかわらず、元本確定期日の最長5年を超えて賃貸借契約が存続した場合、賃貸人は保証がないまま賃貸し続けなければいけないことになり賃貸人に酷である、とか、極度額の定めがあれば、保証人の責任の範囲は画され、過大な債務を背負うと言った事態は避けられる、といった意見が考慮された模様です。

また、個人根保証一般の元本確定事由としては、

・保証人が強制執行、担保権実行の申立を受けたとき

・保証人が破産手続開始決定を受けたとき

・主債務者または保証人が死亡したとき

が規定されましたが、

・主債務者が強制執行、担保権実行の申立を受けたとき

・主債務者が破産手続開始決定を受けたとき

については、今回の改正においても、個人貸金等根保証契約に限って適用されることとされました。

これは、例えば、不動産賃貸借契約は賃借人の破産等によっても終了しないにもかかわらず、賃借人を主債務者とする個人根保証契約の元本が確定するとなると,賃貸人としては、その後は保証がないまま賃貸し続けなければいけないことになり、やはり賃貸人に酷である、といった意見があったためです。

 

なお、法人が保証人となる根保証契約では極度額の定めがなくても有効ですが、その場合、その主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれるか否かにかかわらず、保証人の主債務者に対する求償権についての個人保証(根保証でない通常の保証の場合)は無効となることとされました。

(当該求償権についての個人保証が根保証契約であるときは、その個人根保証契約において極度額の定めがあれば、その個人根保証契約は有効となります。)

 

さらに、今回の改正議論では、極度額の定めがあっても、事業のために負担する貸金等債務については、保証債務の額が多額になりがちであり、主債務者との個人的関係から安易に保証人になってしまうケースが少なくなく、より慎重な手続が必要ではないかという議論も起こりました。

その結果、今回の改正で、事業のために負担した特定の貸金等債務を主債務とする通常の保証契約(根保証契約以外のもの)及び主債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約(これらの求償権を保証する場合も含む)において、保証人が個人である場合、公証人に保証意思を事前に確認させ、かかる手続きが履践されていない保証契約は無効とするものとされました。

(ただし、保証人が主債務者の取締役や大株主、あるいは共同事業者や配偶者であるような場合には、保証のリスクを認識せずに安易に保証契約を締結するおそれは低いと考えられることから、公証人による保証意思の確認は不要とされました。)

 

実務上注意すべき点

 

今回の民法(債権法)の改正により、根保証契約における極度額の定めが、主債務が貸金等の場合における根保証契約だけでなく、広く個人根保証契約一般に拡大されることとなったため、これまで極度額の定めが不要とされていた、不動産賃貸借の債務や介護施設入居者の負う債務に対する根保証契約などについて、極度額を設ける必要があります。

根保証契約に関する改正法の施行は令和2年(2020年)4月1日からです。

この施行日以後に締結された根保証契約については、改正法の規定が適用されます。

 

この点、改正法施行前に締結した契約に関し、定期賃貸借契約における根保証契約は特に注意が必要です。

すなわち、改正法施行前に締結された(定期でない普通の)賃貸借契約の場合、当該賃貸借契約に付随する(根)保証契約は、賃貸借契約が合意更新された場合を含めてその賃貸借契約から生じる賃借人の債務を保証することを目的とするものであると解され(判例)、賃貸借契約の更新時に新たな保証契約が締結されるものではないと考えられます。よって、賃貸借契約が改正法施行後に合意更新されたとしても、上記のような保証に関しては、改正法施行後に新たに保証契約が締結されたものではなく、(根)保証に関する改正法の規定は適用されないと考えられます(※)。

(※)

なお、「一問一答 民法(債権関係)改正」(法務省大臣官房審議官筒井健夫、法務省民事局参事官村松秀樹、編著,商事法務)384頁においては、「新法の施行日以後に、賃貸借契約の合意更新と共に保証契約が新たに締結され、又は合意によって保証契約が更新された場合には、この保証については、保証に関する新法の規定が適用されることになることは言うまでもない。」と述べられています。どのような場合に「保証契約が新たに締結され、又は合意によって保証契約が更新された」と評価されるのかは、必ずしも明らかではありませんが、かかる評価を受けるような事情がある場合は、改正法が適用されることになりますので、注意が必要です。

これに対し、定期賃貸借契約は期間満了により契約が終了し、更新はできません。改正法施行後に、施行前に締結した定期賃貸借契約が終了した場合、同内容の賃貸借契約を再契約したとしても、それは新たな契約であるため、それに伴う根保証契約も新たに締結された契約ということになります。よって、改正法施行後に新たに締結した根保証契約として、改正法が適用されることになり、極度額の定めを設ける必要があります。

 

[弁護士 奥田孝雄]

2019年6月21日 | カテゴリー : 法律コラム | 投稿者 : okudawatanabe