民法(相続法)の改正その3~相続人以外の親族の貢献

相続人以外の親族の特別寄与料支払請求権が創設

 

民法(相続法)の改正により、相続人以外の親族が、無償で被相続人の療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたときは、相続開始後、相続人に対し、特別寄与料の支払いを請求できることになりました(改正民法1050条)。

 

具体的には、例えば、介護が必要となった高齢の被相続人の療養看護を、被相続人の息子の妻が無償で担ったような場合や、被相続人が営む農業を、被相続人の妻の連れ子(被相続人と養子縁組はしていない)が無償で長年手伝ったような場合が考えられます。

 

これまでも、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした相続人に、寄与分を認める制度はありましたが、あくまでも相続人にのみ認められるものでした。

もっとも、被相続人の息子の妻が療養看護を担ったようなケースでは、相続人である息子の寄与分を判断する中でその妻の寄与を考慮し、息子の取得する遺産を多くすることによりバランスを図る裁判例などもあります。しかし、寄与をしたのは息子の妻であるにもかかわらず息子の寄与分として認めることの法的根拠が明らかではありません。また、息子が被相続人より先に亡くなり、かつ、息子夫婦に子(代襲相続人)が存しない場合には、相続人の寄与分を判断する中で息子の妻の貢献を考慮するという方法も取れないことになります。

 

また、相続人でない者の貢献に報いる制度としては、特別縁故者に対する相続財産分与の制度(民法958条の3)がありますが、これは相続人が不存在である場合に限られるため、相続人が存在する場合には認められません。

 

さらに、被相続人に無償の療養看護その他の労務を提供した者が、被相続人との間における準委任契約や事務管理、不当利得といった法的構成により何らかの金銭を請求することも考えられますが、立証の困難性もあり、容易ではありません。

 

このような状況のもと、民法(相続法)改正により、相続人以外の親族の貢献に報い、実質的な公平を図る制度が創設されることとなったのです。

 

この制度の施行は2019年7月1日です。

2019年7月1日以降に開始した相続において適用されます。

 

 

請求権者は

 

特別の寄与料を請求できるのは、被相続人の親族であり、かつ、相続人ではない者です。

 

「親族」とは、

①6親等内の血族

②配偶者

③3親等内の姻族

のいずれかに該当する者です(民法725条)。

 

例えば、被相続人の息子の妻(いわゆる舅・姑と嫁の関係)は、1親等の姻族にあたり、上記③の3親等内の姻族として、被相続人の「親族」に該当し、かつ、相続人ではありませんので、特別寄与料の請求権者となります。

また、被相続人の妻の連れ子は、これも1親等の姻族にあたり、上記③の3親等内の姻族として、被相続人の「親族」に該当します。ただし、当該連れ子が被相続人と養子縁組をしている場合は、養子として相続人になりますので、この特別寄与料は請求できません。

 

なお、相続放棄をした者や、相続人の欠格事由に該当する者、廃除により相続権を失った者は、この請求権はありません。

 

また、請求権者が被相続人の「親族」に限られるため、内縁の配偶者や、親族にあたらない事実上の養子、同性婚のパートナーなどは、適用対象外となります。もっとも、相続人以外の者の無償の貢献に報いるという本制度の趣旨からすれば、これらの者も請求権者に含めるべきとも言えそうです。国会でも、民法(相続法)改正施行にあたり、「現代社会において家族の在り方が多様に変化してきていることに鑑み、多様な家族の在り方を尊重する観点から、特別の寄与の制度その他の本法の施行状況を踏まえつつ、その保護の在り方について検討すること」との附帯決議がなされていますので、将来的には請求権者の範囲が再検討される余地もあるでしょう。

 

 

どのような場合に特別寄与料が認められるか

 

この特別寄与料を請求するには、被相続人に対して「無償」「療養看護その他の労務の提供」をしたことが必要です。対価を得て労務を提供していた場合は、請求できません。

 

療養看護の内容としては、どの程度の行為をしたことが必要か、なかなか判断が難しいのですが、相続人の寄与分をめぐる議論においては、本来なら介護施設等への入所が必要な状態であるところを自宅で介護したような場合が考えられる、とか、目安としては介護認定の要介護2以上の状態、などとも言われています。これらが一応の参考にはなると思われますが、被相続人及び介護者、相続人らの具体的状況によって結論は変わってくるでしょう。

 

その他の労務の提供とは、被相続人が営む農業、林業、漁業、その他の自営業において、親族が無償で働いたような場合が考えられます。

 

また、無償で療養看護その他の労務の提供をした結果、被相続人の財産が維持され又は増加したことが必要です。

 

 

どうやって請求するか

 

特別寄与者は、相続開始後、相続人に対して特別寄与料の支払いを請求できますが、当事者間で協議が調わないとき、又は協議ができないときは、家庭裁判所に対して、協議に代わる処分を請求することができます(改正民法第1050条2項本文)。

管轄は、相続開始地(被相続人が死亡した時の住所地)の家庭裁判所となります(改正家事事件手続法第216条の2)。

 

特別の寄与に関する処分を求めて家庭裁判所に申立がなされると、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定めます。

この特別寄与料の額については、相続人による寄与分の制度において、相続人が被相続人に対し療養看護等の労務の提供をした場合の算定方法が参考になると考えられます。

具体的には、療養看護の場合であれば、

第三者が同様の療養看護を行う場合の日当額✕療養看護日数✕裁量的割合

との算定方法が参考になります。

(裁量的割合とは、被相続人と看護を行った者との身分関係や、被相続人の状態、看護の専従性等を考慮して、裁判官が個別具体的な事案に応じて定める割合であり、0.5~0.7程度の範囲内で定められることが多い模様です。)

この点、あくまでも一例ですが、近時の参考判例として東京高裁平成29年9月22日決定(※)が挙げられます。

(※)東京高裁平成29年9月22日決定

この判例のケースでは、要介護4(後に要介護5)となった被相続人について、介護保険による介護サービス(訪問介護、デイサービス、ショートステイ、訪問看護等)を利用しつつ、被相続人と同居の次男が、介護をヘルパー任せにせず、食事や給水の介助、摘便、痰吸引といった介護を数年にわたり行ったところ、裁判所は次男の寄与分を認めました。

寄与分の具体的な算定にあたっては、介護当時の介護報酬基準額をもとに、要介護4の場合は6,670円、要介護5の場合は7,500円を介護報酬(日当)として用いました。

そして、要介護4及び要介護5の認定を受けていた各期間に次男が療養看護を行った日数から、ショートステイ利用日数、デイサービス利用日数(半日分)を差し引いた日数を、特別な寄与に相当する療養看護日数とし、これを上記の介護報酬(日当)額に乗じるとしました。

また、痰吸引については、次男が痰吸引を行った日数を算出したうえで、当該日数に、訪問看護(20分未満)の看護報酬2,850円を乗じるとしました。

そのうえで、被相続人と次男が親子であること、次男が被相続人所有の自宅に無償で居住し、その生活費は被相続人の預貯金で賄われていたこと、訪問介護等の介護サービスも利用していたことなどを考慮し、裁量的割合として0.7を乗じるとしました。

 

なお、特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることはできないとされています。

 

特別寄与料の額が定められると、相続人は法定相続分又は指定相続分に応じて、これを負担することになります。

 

 

期間制限に注意が必要

 

特別寄与者が権利行使をするには、期間制限があります。

特別寄与者が相続の開始及び相続人を知ったときから6か月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができなくなります。

相続に関する紛争の複雑化、長期化を防ぐための期間制限ではありますが、かなり短い期間となっていますので、注意が必要です。

 

[弁護士 奥田聡子]

 

2019年6月14日 | カテゴリー : 法律コラム | 投稿者 : okudawatanabe