民法(債権法)の改正その1~法定利率

民法(債権法)改正作業・審議の経過

 

個人や企業の活動を規律する法律として民法(明治29年法律第89号)があります。

これは明治29年4月27日に成立し、同31年7月16日に施行された法律ですが、その後、今日に至るまで、大きな改正はなされないままでした。

しかし、民法が成立した当時と今日では、個人や企業を取り巻く環境には大きな隔たりがあり、また数多くの判例が生まれ、実質的に法律の内容が修正されるような事態も生まれていますが、このような状況は、法律の専門家ではない国民一般にとっては分かり難いものとなっていました。

 

そこで、政府は、平成21年10月、社会経済の変化への対応と国民一般に分かり易いものとするとの観点から、民法、特に取引社会の基本的取決めである債権関係の規定の見直しを法制審議会に諮問し、民法部会が設置されて改正作業が始まりました。

 

平成23年4月に「中間的な論点整理」が、同25年2月には「中間試案」がそれぞれ決定され、同26年8月には「要綱仮案」が決定されました。そして、平成27年2月に「民法(債権関係)の改正に関する要綱案」が決定されました。

この要綱案は、法務大臣に答申され、平成27年3月、第189回国会に「民法の一部を改正する法律案」と、その整備法案(施行に伴う新法・旧法の適用関係などの規律を定める法律案のこと)である「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」が提出され審議が始まりました。そして、平成29年4月14日に衆議院本会議で可決され、同年5月26日の参議院本会議でも可決されて、成立しました。

 

この2つの法律は、平成29年(2017年)6月2日に公布され、2020年4月1日(一部例外を除く)に施行されます。

 

法定利率の変更

 

今回の改正は債権関係を中心に約200項目にも亘っており、市民生活や企業取引に大きな影響が及ぶものと考えられますが、本コラムでは、その中で「法定利率」の変更を取り上げたいと思います。

 

法定利率って何?

 

皆さんは、「法定利率」ってご存知でしょうか。対立概念としては「約定利率」というものがあり、当事者間で決めた利率のことを指します。これに対し、「法定利率」とは、法律で定められた利率のことを指し、利息が発生するような場合で契約による利率の定めが明らかでない場合と、利息が法律の規定によって発生する場合に適用されます。

 

現行法では次のように規定されています。

【民法404条】 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年5分とする。

 

「年5分」という割合は民法制定時から変更はなされていません。起草者の説明では明治29年当時の通常金利が年5分程度だったため、法定利率も同率にしたようです。

ちなみに、商取引の場合の法定利率は年6分(商法514条)とされています。

 

この「年5分」という利率には、昨今の低金利を踏まえると高すぎるという批判がある一方、民法の制定以来、公定歩合が5%を超えていた時期もあったという指摘もあり、単純に5%より低い利率を定めて固定すればよいということにはなりません。

 

変動利率制の導入の理由

 

固定利率制への批判としては、法定利率が市場金利を大幅に上回っている場合、債権者にとって市場金利よりかなり有利な利率が適用される結果、金銭債権の通常の運用益以上の利益を債権者に認めることとなり当事者間の公平を害する、他方、法定利率が市場金利を大幅に下回っている場合、弁済資金を調達するために融資を受ける(この場、市場金利を考慮した金利が約定される。)より、債務の履行を延滞した方が有利となり、支払遅延を誘発するおそれがあり、当事者間の公平を害する、というものです。

 

そこで、今回の改正においては、法定利率について、固定利率制をやめ、変動利率制を導入することとなりました。

 

改正法の内容

 

今回の改正によって、法定利率に関する条項は大きく変更されました。具体的には以下のとおりです。

【民法404条】

  1. 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
  2. 法定利率は、年3パーセントとする。
  3. 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、3年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。
  4. 各期における法定利率は、この項の規定により法定利率に変動があった期のうち直近のもの(以下この項において「直近変動期」という。)における基準割合と当期における基準割合との差に相当する割合(その割合に1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)を直近変動期における法定利率に加算し、又は減算した割合とする。
  5. 前項に規定する「基準割合」とは、法務省令で定めるところにより、各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの各月における短期貸付の平均利率(当該各月において銀行が新たに行った貸付け(貸付期間が1年未満のものに限る。)にかかる利率の平均をいう。)の合計を六十で除して計算した割合(その割合に0.1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)として法務大臣が告示するものをいう。

 

この法定利率に関しては、附則第15条が次のように規定されています。

【附則第15条】

  1. 施行日前に利息が生じた場合におけるその利息を生ずべき債権に係る法定利率については、新法第404条の規定にかかわらず、なお従前の例による。
  2. 新法第404条4項の規定により法定利率に初めて変動があるまでの各期における同項の規定の適用については、同項中「この項の規定により法定利率に変動があった期のうち直近のもの(以下この項において「直近変動期」という。)」とあるのは「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)の施行後最初の期」と、「直近変動期における法定利率」とあるのは「年3パーセント」とする。

 

結局、どうなるの?

 

改正後の民法第404条及び附則第15条の規定から、法定利率、及びその適用は次のようになります。

 

① 改正法施行時の法定利率は年3パーセントである。

② 改正後に生ずる利息の法定利率は、別段の意思表示のない限り、最初に利息が生じたときの法定利率によることとなり、その後、法定利率に変動があっても影響をうけない。

③ 改正法施行日前に利息が発生している場合の法定利率は、旧法の年5パーセントである。

④ 法定利率の見直しは3年を一期とし、一期ごとに行われる。

⑤ 法定利率の見直しは、直前期との基準割合の金利差が1パーセント以上生じないと行われず、かつ金利差のうち1パーセント未満は切り捨てられ、1パーセント単位で変動する。

 

なお、改正法の施行に伴い、商事法定利率は廃止され、法定利率は一本化されます。

 

実務への影響

 

現実には、金銭消費貸借契約などで利息を付すことを合意する場合、あわせて利率も約定するのが通常かと思われます。

よって、法定利率の適用が具体的に問題となるのは、主に、利息が法律の規定によって発生する場合であり、例えば、不当利得の法定利息や金銭債務不履行における損害賠償の遅延損害金の利率などが考えられます。

また、金銭消費貸借契約において、利息を付すことを合意していなければ、貸主はそもそも利息を請求することはできませんが、例外として、商人間で金銭消費貸借契約を締結したときは、利息を付すとの合意がなくても、貸主は法定利息を請求することができます(商法第513条1項)。

これらについては、改正法の影響を受けることになります。

 

さらに、改正法では、例えば、交通事故の損害賠償請求などでよく問題となる逸失利益(将来において取得すべき利益)や将来の介護費用などについて、その損害賠償額を計算する際に中間利息を控除するときは、その損害賠償請求権が生じたときの法定利率によって計算されることが、新たに規定されました(改正民法417条の2)。

よって、改正法が施行されると、とりあえず当面の間、中間利息の控除は年3パーセントで計算されることとなり、改正前に比して控除額が少なくなる(すなわち、賠償すべき額が多くなる)ことが想定されます。

なお、中間利息の控除に関しても、経過規定(附則第17条2項)が定められており、施行日前に生じた損害賠償請求権については、改正法は適用されません。

具体的には、交通事故の場合、施行日前に発生した事故であれば、中間利息の控除は年5パーセントで計算され、施行日(2020年4月1日)以後に発生した事故であれば、年3パーセントで計算されることになります。

 

[弁護士 奥田孝雄]

 

2018年7月12日 | カテゴリー : 法律コラム | 投稿者 : okudawatanabe