来年から民泊が全国的に解禁
本年6月、「住宅宿泊事業法」(民泊新法)が国会で成立しました。
これにより、これまで大阪市など一部の国家戦略特別区域のみで認められていた民泊が、来年には、全国的に解禁されることになりました。
民泊については、マスコミ報道やインターネット上の情報などで見聞きされたことがある方も少なくないでしょう。
そもそも、「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」をするには、例えそれが自宅の一部や自らが所有する空き家・空き部屋であったとしても、何の規制も受けずに自由に行えるわけではなく、本来、旅館業法上の許可が必要です。
これに対し、近年の国内外からの観光やビジネス等、多様な宿泊ニーズの高まりを受け、国家戦略特別区域法に基づく旅館業法の特例が定められ、平成28年より、一部の国家戦略特別区域(特区)において、旅館業法の適用が除外される、いわゆる「特区民泊」がスタートしました。
もっとも、旅館業法の規制を受けないとはいえ、特区民泊についても、滞在日数や居室の構造設備など様々な要件を満たして行政の認定を得なければならず、周辺住民への説明や苦情窓口の設置なども行う必要があります。
新たに成立した上記「住宅宿泊事業法」(民泊新法)に基づき民泊を営む場合でも、都道府県への届け出が義務付けられており、年間営業日数は180日が上限(条例で営業日数をさらに制限することが可能)とされるなど、法律や条例で定める種々の要件を満たさなければなりません。
あなたのマンションはどうする?~民泊は可か否か
民泊営業は一戸建てでもマンションの一室でも行うことは可能です。
もっとも、近隣との関係でいえば、とりわけ分譲マンションにおいては、同じ建物内に多数の区分所有者がおり、かつ、多数の人が居住していることから、トラブルが起こりやすいと言えそうです。
民泊の全国的な解禁を控え、分譲マンションの区分所有者にとって、そのマンションで民泊営業が行われるか否かは、重大な問題となってきます。
住民以外の宿泊客が頻繁に出入りすることを好まず、マンション内で民泊営業が行われることをよしとしない区分所有者もいることでしょう。
他方、資産活用や空き部屋の有効利用として、自分が所有する一室で民泊営業を行いたいと考える区分所有者もいるかもしれません。
民泊を許容するかどうかについては、分譲マンションそれぞれにおいて、区分所有者間で十分協議をし、方針を決めることが肝要です。
来年の民泊解禁を控え、分譲マンションの管理組合においては、民泊を可とするか否か、方針を明確にすべく、対応を迫られることになるでしょう。
国土交通省が「マンション標準管理規約」を改正
上記のような状況のもと、今般、国土交通省は、「マンション標準管理規約」を改正し、各マンションの管理組合において、民泊が可能か禁止かを管理規約に明記するよう、示しました。
「マンション標準管理規約」とは、分譲マンションの管理組合のルールを定める管理規約について、国土交通省が示しているひな形であり、多くの管理組合において、この標準管理規約が参考にされています。
詳しくは、国土交通省のウェブサイトに掲載されていますが、
・住宅宿泊事業(民泊)を可能とする場合
・住宅宿泊事業(民泊)を禁止する場合
それぞれの規約例のほか、
・住宅宿泊事業者が同じマンション内に居住している住民である場合(家主居住型)の住宅宿泊事業に限り可能とする場合
・住宅宿泊事業者が自己の生活の本拠として使用している専有部分において宿泊させる場合(家主同居型)の住宅宿泊事業に限り可能とする場合
の規約例なども挙げられていますので、参考にしてみるとよいでしょう。
違法民泊による近隣トラブルも発生~裁判に発展したケースも
なお、先に指摘したとおり、そもそも宿泊料を受けて宿泊業を営むには旅館業法上の許可が必要であり、特区民泊や民泊新法の民泊を営業する場合にも、様々な要件を満たして行政の認定ないし届出を経る必要がありますが、現実には、法律や条令等で定められた手続を取らない違法なヤミ民泊が横行し、宿泊客による騒音やゴミの放置など、近隣とのトラブルが既に多数発生しています。
このような民泊トラブルの中には、裁判にまで発展したケースも出てきています。
新聞報道によると、民泊を行っているとみられる分譲マンション所有者に対し、当該マンションの管理組合が民泊の差し止めを求め、平成28年(2016年)1月27日、大阪地裁は、差し止めを認める決定を出しました。
また、本年1月13日には、旅館業法の脱法的な営業とみられる民泊をめぐり、ごみの放置や深夜の騒音などが発生したとして、部屋の所有者に損害賠償を命じる判決を大阪地裁が言い渡しています。
さらに、本年8月には、大阪の分譲マンション管理組合が、民泊営業がマンションの管理規約違反であるとして、部屋の所有者や管理代行業者らに対し、営業の停止や損害賠償を求める裁判を提起したとのことで、東京などでも類似の裁判が起こっているとのことです。
もっとも、裁判には相応の費用・時間・労力がかかります。裁判で損害賠償が認められても、相手に支払能力がなかったり、所在が不明になってしまったりすれば、現実には賠償を受けられない可能性も否定できません。
違法な民泊については、旅館業法の許可申請を管轄する各地の保健所のほか、大阪市や京都市などでは、民泊に関する専用の通報・相談窓口を設けて、調査・指導を強化してきているところもあります。(このような通報・相談窓口は、各自治体のウェブサイトでも紹介されています。)
また、悪質なケースについては、警察が捜査・検挙し、刑事罰が科せられることもあります。
近隣で違法な民泊が行われているのではないか?との懸念・不安があったり、現実に何らかの迷惑を被っているような場合は、まずは上記のような行政窓口に通報・相談してみましょう。
[弁護士 奥田聡子]