下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます。)は昭和31年に制定され、その後、幾度の改正を経て、また多くの通達や運用基準が発表され、現在に至っています。
平成28年12月14日に下請法の運用基準の改正が発表され、同日より施行されました。
今回は、この運用基準改正の概要をご説明します。
そもそも運用基準とは?
下請法に関する運用基準とは、下請法を所管する公正取引委員会が定めるガイドラインの1つです。
法律そのものではありませんが、下請法の適用基準を予め明らかにすることにより、取引の予測可能性を高めるとともに、違反行為の未然防止を図る目的で定められているものです。
公正取引委員会による下請法の適用はこの運用基準に基づいて行われます。
なぜ改正されたのか?
公正取引委員会は、中小事業者の取引条件の改善を図る観点から、下請法の一層の運用強化に向けた取り組みを進めており、その取り組みの一環として運用基準を改正したと発表しています。
前回の改正は平成15年でしたので、13年ぶりの改正となりますが、その間に中小企業を取り巻く事業環境が悪化していることが背景にあるのではないでしょうか。
いずれにせよ、下請法の適用が厳しくなることは間違いないと思います。
運用基準改正のポイント
今回の運用基準の改正のポイントとしては、主に次の3点です。
- 違反行為事例の大幅追加
- 特に留意すべき違反行為類型の追加
- 下請法対象取引ではないと誤認し易い事例の追加
1 違反行為事例の大幅追加
平成15年改正の運用基準では、違反行為事例は66事例でしたが、今回の改正により141事例と大幅に増加しています。下請取引において、問題となったケースが盛り込まれています。
2 特に留意すべき違反行為類型の追加
親事業者が、新単価合意前に発注した取引について、新単価を遡及的に適用させ、差額分を差引いて支払う行為など、違反行為の未然防止等の観点から、特に留意すべき違反行為類型が追加されています。
3 下請法対象取引ではないと誤認し易い事例の追加
建設業者が施主から作成を請け負う建築設計図面の作成を建築設計業者に委託する場合や,アニメーション制作業者が製作委員会から制作を請け負うアニメーションの原画の作成を個人のアニメーターに委託するような場合(いずれも情報成果物作成委託)も、下請法の適用があることが示されました。
詳しくは,公正取引委員会のウェブサイトに掲載されています。
法務担当者として留意すべきこと
下請法は、独禁法の優越的地位の濫用規制を補完する法律であり、形式的要件にて親事業者と下請事業者を画定し、親事業者の義務や禁止行為を定めることにより、下請取引の公正化や下請事業者の利益を保護しようとしています。
下請法に違反する取引があるかどうかは、公正取引委員会や中小企業庁が定期的に調査しており、必要があるときは、報告を求めたり、あるいは立入検査をすることができます。違反行為に対しては、下請事業者が受けた不利益を回復するために必要な措置を勧告することができ、勧告内容は公表されます。
よく問題となる下請代金の減額の事例では、親事業者が数千万円や数億円もの減額分を下請事業者に支払わされた事例があり、経営に与える影響は決して小さいものではありません。
下請取引は、取引担当者が窓口となり、日常的に行われているものであるため、法務担当者の目が届かないことが多く、知らないうちに下請法に違反していたという事態が生じかねません。
法務担当者としては、今回改正された運用基準をよく検討し、自社の取引形式や内容に照らし合せて、違反行為があった場合は、速やかに是正されることが必要だと思います。
なお、違反行為を自発的に申出た親事業者については、違反行為を取り止めていること、原状回復措置を既に講じていること、再発防止策を講じていること、公正取引委員会の調査等に全面的に協力していることを条件として、勧告措置がとられない運用になっています。
[弁護士 奥田孝雄]