節税目的の養子縁組も「有効」~最高裁平成29年1月31日判決

相続人の中に養子がいると,相続税はどうなるか

 

相続税の計算をする際,課税される財産の価額から基礎控除額を差し引くことができます。

平成27年1月1日以後に死亡した人の相続の場合,基礎控除額の計算方法は,

3000万円+600万円×法定相続人の数

とされています。

 

例えば,Aさんという男性が死亡し,相続人が,妻,長男,長女の3人だとします。

この場合,法定相続人は3人ですので,基礎控除額は,

3000万円+600万円×3人=4800万円

となります。

 

これに対し,Aさんが,生前,長男の子(Aさんの孫)と養子縁組していたとします。

その場合,基礎控除額を計算するにあたり,養子も1人までは法定相続人の数に含めることができますので,基礎控除額は,

3000万円+600万円×4人=5400万円

となります。

差し引ける基礎控除額が増えれば,相続税の負担も軽くなることから,養子縁組には節税効果がある,と言えます。

 

また,相続人が受け取る生命保険金や死亡退職金についても,非課税限度額までは相続税がかかりません。この金額も,法定相続人の数を基に計算するので,養子縁組をすれば,非課税限度額が増えることになり,その点でも,節税効果が期待できます。

 

このような税務上のメリットから,相続税対策としての養子縁組はかなり広く行われていると言われています。

 

[注]

相続税法上,相続税の基礎控除額や生命保険金・死亡退職金の非課税限度額,相続税の総額の計算をするにあたり,法定相続人に含める養子の人数は,被相続人に実子がいる場合は養子は1人まで,実子がいない場合は養子は2人まで,とされています。なお,特別養子縁組の場合や配偶者の実子(いわゆる連れ子)を養子にしたような場合は,それらの養子は全て法定相続人の数に含めて計算できるとされています。詳しくは国税庁のホームページなどをご覧ください。

なお,民法上は,養子の人数制限はありませんので,上記の人数以上に養子縁組をすること自体は可能です。

 

節税目的の養子縁組の有効性

 

ところが,このような節税目的の養子縁組について,法的に有効か否かが争われる裁判が起こりました。

 

ある男性が,税理士らから,孫(長男の子)を養子にした場合,相続税の節税効果がある旨の説明を受け,当該孫と養子縁組をしたのですが,男性の死後,長女と次女が,その養子縁組は無効であると主張し,提訴したのです。

 

一審の東京家裁は,養子縁組は有効としましたが,二審の東京高裁は,「本件養子縁組はもっぱら相続税の節税のためにされたものである」としたうえで,民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たる,として,当該養子縁組を無効としました。これに対し,養子(孫)側が上告し,争いは最高裁に持ち込まれました。

 

先に述べたとおり,節税目的で養子縁組を行うケースは,世の中にかなり多く存するため,最高裁の判断が注目されていましたが,最高裁は平成29年(2017年)1月31日の判決で,

 

「相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存しうるものである。

したがって,もっぱら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう『当事者に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない。」

 

と判示し,本件養子縁組について,縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく,「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない,として孫との養子縁組を有効と判断しました。

 

 

養子縁組は相続人同士がもめる原因となることも

 

このように,最高裁は,もっぱら相続税の節税のための養子縁組であってもただちに無効となるものではない,と判断しましたが,現実には,養子縁組が相続人同士の紛争の原因になってしまうこともあります。

 

養子縁組によって法定相続人が増えれば,他の相続人の法定相続分が減ることにもなりますので,他の者からすれば納得しがたい場合も少なくありません。

 

特に,養子縁組の事実を他の相続人が知らされておらず,相続が発生した後(すなわち被相続人が死亡した後)になって初めて養子縁組の事実を知ったような場合は,なおさら,争いが起こりやすいとも言えます。

 

節税のために養子縁組を行うとしても,将来相続人同士がもめることをできるだけ避けるべく,養親となる者から,あらかじめ家族みんなに養子縁組の事実を説明し納得を得ておく,といった配慮をすることも考えるべきでしょう。

 

 

[弁護士 奥田聡子]

 

2017年2月6日 | カテゴリー : 法律コラム | 投稿者 : okudawatanabe