特別縁故者って何?~入所者の遺産が施設へ

 

施設を特別縁故者と認定~名古屋高裁金沢支部の決定

 

昨年(平成28年)12月初旬の報道によると,福井県の障害者支援施設に35年間入所し平成27年に亡くなった身寄りのない男性の遺産について,名古屋高裁金沢支部が,施設を男性の特別縁故者と認定し,遺産約2200万円を施設に分与するとの決定を出したとのことです。

 

「特別縁故者」という言葉,初めて聞く方も多いかもしれませんね。

 

人が亡くなると,その人(被相続人)の遺産は法律が定めた相続人(法定相続人)が相続します。

しかし,被相続人に配偶者も子どももおらず,父母や兄弟姉妹は既に他界し,甥姪も存在しない,というような場合,法定相続人が一人も存在しないことになります。

少子化が進み,生涯結婚しない人も増えている昨今,このようなケースは必ずしもめずらしくありません。

 

また,法定相続人にあたる人はいるが,全員が相続放棄の手続を取り,結果,相続人が一人もいない状態になることもあります。

 

このように相続人が不存在の場合,民法は,相続人ではないが被相続人と特別に深い縁故を持っていた者に遺産を分与する制度を定めています。

これが「特別縁故者に対する相続財産の分与」(民法958条の3)です。

 

 

「特別縁故者」とは?

 

民法958条の3は,特別縁故者として相続財産の分与が認められる者として,

  • 「被相続人と生計を同じくしていた者」
  • 「被相続人の療養看護に努めた者」
  • 「その他被相続人と特別の縁故があった者」

を挙げ,かつ,相当性が認められる場合に財産の分与を認めるとしています。

 

例えば,被相続人と長年一緒に暮らしてきた内縁の妻や,養子縁組はしていないが幼少の頃から親子として生活してきた事実上の養子などが特別縁故者の典型例と言われています。

 

個々の案件において特別縁故者として財産分与が認められるか否かは,裁判所が具体的な事情をもとに個別に判断しますが,その判断基準は必ずしも明確ではないのが実情です。

 

 

「療養看護に努めた者」とは?~報酬が支払われていた場合

 

「被相続人の療養看護に努めた者」とは,被相続人を献身的に世話して療養看護に尽くした者をいうとされています。

そして,介護ヘルパー,看護師などが職業として被相続人の療養看護にあたった場合,正当な報酬を得て稼働していた者は,特別の事情がない限り,特別縁故者とは認められない,と考えられていますが,対価としての報酬以上に献身的に被相続人の看護に尽くした場合には,例外的に特別縁故者に該当する,と解されています(神戸家裁昭和51年4月24日決定等)。

 

と言っても,「対価としての報酬以上に献身的に看護に尽くした」とは,どのような場合を指すのか,極めて曖昧であり,結論は個々の裁判官の判断に委ねられると言わざるを得ないと思われます。

 

ちなみに,冒頭で指摘した名古屋高裁金沢支部の決定では,報道によると,

  • 施設職員は男性と地道に信頼関係を築き,食事や排せつなど日常的介護のほか,娯楽にも参加できるよう配慮し,昼夜を問わず頻発するてんかんの発作にも対応するなど,長年男性が快適に暮らせるよう献身的な介護を続けていた。通常期待されるサービスの程度を越え,近親者の行う世話に匹敵する。
  • 男性が預金を蓄えることができたのは,施設利用料の安さが大きく寄与している。
  • 専用リフト購入や,葬儀・永代供養などのサービスが,人間としての尊厳を保ち,快適に暮らせるよう配慮されており,通常期待されるレベルを超えていた。近親者に匹敵,あるいはそれ以上だ。

などとして,施設を特別縁故者と認定し,相続財産の分与を認めたとのことです。

 

 

施設が特別縁故者と認められた例は過去にもあった

 

なお,過去にも施設が特別縁故者と認められた判例はありました。

 

高松高裁平成26年9月5日決定は,労災事故により全身麻痺となって約6年間介護付き施設に入所していた入所者の相続に関し,同施設を運営する一般社団法人は被相続人の療養看護に努めた者として特別縁故者にあたると判断し,相続財産の全部(現預金約1890万円等)について同法人への分与を認めました。

この決定では,

  • 被相続人を適宜買い物やレクリエーション行事に連れ出すなどしていた。
  • 被相続人は,介助に当たる職員に身体のマッサージなど独自の介護を求めたり,無理な注文をしたり,意のままにならないと暴言を吐いたりしたことが多々あったが,職員らは献身的に粘り強く被相続人の介護又は介助に当たり,これにより被相続人もほぼ満足できる生活状況であった。
  • 被相続人の実母が死亡した際には,被相続人の依頼を受け同人に代わって,実母の葬儀等の手配をしたほか,相続財産である貯金を被相続人が相続するための手続をした。
  • 被相続人の財産から費用を支出して,被相続人の葬儀を執り行い,遺骨を寺院に納めて永代供養の手続をとった。

などの点が指摘され,被相続人が長年にわたって手厚い看護を受けてきたとされました。

 

また,那覇家裁石垣支部平成2年5月30日決定は,法人格を有しない県立の養護老人ホームを被相続人の療養看護に努めた特別縁故者にあたると認め,相続財産(預金約118万円等)の分与を認めました。

この決定では,

  • 被相続人(昭和60年6月死亡)は,昭和46年4月に入所,昭和52年頃から衰弱が激しくなり,歩行,入浴,排便等においても介助を必要とするようになり,同園の職員がその世話をし,死亡に際しては,同園の職員が葬儀を行い,その後も同園の納骨堂に遺骨を安置し,その後の供養も行っている。

といった点が指摘されています。

 

 

特別縁故者として相続財産の分与を受けたい場合~家庭裁判所の手続

 

なお,相続人が不存在の場合に,自動的に家庭裁判所が誰かを特別縁故者と認めて財産を分与してくれるわけではありません。

 

書類作成特別縁故者として相続財産の分与を受けたいと考える者は,まず前提として,家庭裁判所において相続財産管理人選任申立の手続を取り,家庭裁判所が選任した相続財産管理人によって公告等種々の手続が行われたうえで,法律上定められた期間内に特別縁故者に対する相続財産分与の申立手続を取らなければなりません。

(これらの手続については,裁判所のウェブサイトにも説明があります。)

 

特別縁故者に対する相続財産分与の申立がなされると,家庭裁判所が,

  • 分与を求める者が特別縁故者にあたるか否か
  • 分与を認めることが相当か否か
  • 分与を認めるとしてどの範囲で分与を認めるか(全部を分与するか,一部を分与するか)

を判断することになります。

 

これらの一連の手続には,少なくとも1年半程度(事案によってはそれ以上)の期間を要します。

また,申立に際しては,一定の手数料を家庭裁判所に納めるほか,相続財産管理人の報酬を確保するため,申立人が数十万円~百万円程度の予納金を裁判所に納めなければならないこともあります。

 

 

相続人不存在で,特別縁故者もいない場合,財産は国庫に

 

特別縁故者への相続財産分与がなされなければ,相続人不存在の遺産は,最終的に国庫に帰属します。

 

ちなみに,近年,相続人不存在により国庫帰属となった財産の金額は,

  • 平成26年度:433億7961万0374円,
  • 平成27年度:420億3553万9689円

とのことです(最高裁判所平成29年度一般会計歳入予算概算見積書の記載による)。

国家予算の規模からみればわずかの金額ではありますが,被相続人ひとりひとりの貴重な遺産の集積とみれば,非常に重みのある金額ですね。

 

なお,生前に遺言を作成しておけば,自分が死んだ時,法定相続人でなく,かつ,特別縁故者にも該当しない特定の人や団体に財産をわたす(遺贈する)ことも可能となります。

(但し,財産の種類等によっては,その人や団体から遺贈を拒否される場合もありますので,予め遺贈先の意向を確認したうえで遺言を作成する,といった配慮が必要です。)

 

また,例えば,内縁の妻が特別縁故者として財産分与を認めてもらえる可能性が高いと予想される場合でも,先に述べたように,特別縁故者への財産分与申立手続には時間も費用もかかりますし,最終的に特別縁故者と認めてもらえるかどうかも確実ではありません。

内縁の妻に財産を遺したいとお考えであれば,その旨の遺言を作成しておくことにより,死後,内縁の妻がわざわざ特別縁故者への財産分与申立手続を取らなくても,財産を取得することが可能となりますので,ぜひ,遺言を活用してください。

 

[弁護士 奥田聡子]

 

2017年1月10日 | カテゴリー : 法律コラム | 投稿者 : okudawatanabe