現在の民法における配偶者の法定相続分
超高齢化・核家族化の現代。
夫婦のどちらかが亡くなった後,おひとりで長く人生を過ごされる方も増えています。
自分の死後,伴侶が生活に困らないように財産をしっかり遺してあげたい,と考える方もおられるでしょう。
では,いざ相続が発生したとき,配偶者はどれだけの財産を相続する権利があるのか,ご存じでしょうか。
現行の民法では,亡くなった方の配偶者は常に相続人となります。
配偶者以外は,亡くなった方の(1)子(2)直系尊属(父母や祖父母など)(3)兄弟姉妹の順序で,配偶者と一緒に相続人となります。
そして,それぞれの法定相続分は,次のように定められています。
★配偶者と子が相続人の場合
配偶者2分の1,子(2人以上のときは全員で)2分の1
★配偶者と直系尊属(父母,祖父母など)が相続人の場合
配偶者3分の2,直系尊属(2人以上のときは全員で)3分の1
★配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合
配偶者4分の3,兄弟姉妹(2人以上のときは全員で)4分の1
例えば,ある男性が亡くなり,その男性には妻と長男・長女がおられるとします。
この場合,相続人は妻と長男,長女の3名となり,妻の法定相続分は2分の1,長男・長女の法定相続分はそれぞれ4分の1ずつとなります。
遺産分割の話し合いで関係者全員が同意すれば,法定相続分と異なる割合で遺産を分けることも可能ですが,誰かが反対すれば,やはり法定相続分が基本となります。
配偶者の相続分を少ないと思いますか?
それとも十分だと思いますか?
民法改正の動向~配偶者の相続分引き上げにはパブリックコメントで反対意見多数
この点に関し,現在,法制審議会で相続に関する法改正が検討されており,今年7月に取りまとめられた中間試案では,配偶者の相続分を現行民法よりさらに増やす案が盛り込まれていました。
現行の法定相続分は配偶者の貢献の反映が不十分であるとの理由からです。
ところが,この中間試案に対するパブリックコメントの結果が今年10月18日に公表され,配偶者の相続分の引き上げには反対意見が多数を占めました。
夫婦の関係や配偶者の貢献の程度は様々であって,そのような差異を過不足なく反映する制度を設計することは困難である,などとして,配偶者の相続分の引き上げという方向性自体に反対する意見が多く寄せられた模様です。
このような結果を受け,法制審議会では,中間試案のままで議論を続けるのは困難であり,新たな案をまとめることも視野に議論を続ける,とのことですが,なかなか難しい議論になりそうです。
相続に関する改正は実務への影響も非常に大きいため,今後の動向にも注目していきたいと思います。
遺言等の活用~紛争を防ぐために
なお,今後,配偶者の相続分が現行法のまま変わらないとしても,配偶者により多くの財産を遺したい場合,遺言を作成したり,生前贈与をしておくなどによって,一定の対処が可能です。
特に,子どものいないご夫婦の場合,相続紛争を防ぐのに遺言が非常に役立ちます。
例えば,子どものいないご夫婦の夫が亡くなり,夫の直系尊属(父母や祖父母など)もとうに他界されているとします。この場合,夫に兄弟姉妹がいれば,相続人は妻と夫の兄弟姉妹となります。(もし,夫の兄弟姉妹が夫より先に亡くなっている場合は,その子である甥姪が相続人となります。)
このようなケースでは,夫の死後,妻が,夫の兄弟姉妹らから遺産を分けるよう要求されて金銭的に困窮してしまったり,夫婦で長年住んできた自宅を売ってお金を作らざるを得なくなるまで追い込まれることもなくはありません。
でも,もし,夫が生前に「妻に全ての財産を相続させる」旨の遺言を作成しておけば,妻は夫の財産を全て相続することができます。兄弟姉妹や甥姪には,法律上,遺留分(相続財産から最低限取得できる相続割合)がないからです。
また,このように妻とともに兄弟姉妹や甥姪が相続人となるケースでは,相続人の人数が10人を超えることもめずらしくなく,お互い疎遠になっていることもあります。
相続人の中に遠方に住んでいてなかなか連絡の取れない人がいたり,ましてや行方不明の人がいたりすると,遺産分割の話し合いをするにも困難を伴います。
そのような場合でも,夫が生前に遺言を作成していれば,妻が単独で遺言に則って相続手続を進めることも可能になります。
将来の紛争や手間を避けるために遺言は非常に有用ですので,ぜひ作成をおすすめします。
[弁護士 奥田聡子]